東海国立大学機構 岐阜大学 高等研究院 科学研究基盤センター 共同研究講座抗酸化研究部門
犬房春彦 特任教授
【前編】では、外科医としての臨床経験を原点に、犬房春彦先生が抗酸化研究というテーマにたどり着くまでの軌跡を追いました。【後編】の本記事では、先生が最も重要視されている「科学的エビデンスの構築」に焦点を当てます。 玉石混交のサプリメント市場において、いかにして信頼性の高いデータを積み上げていったのか。日本認知症予防学会から「グレードA」の評価を得るに至った臨床試験の背景や、次世代製剤開発における理論的アプローチ、そしてコロナ禍で多くの専門家からも注目された情報発信の意図について、詳しく伺います。
サプリメントの研究を進める上で、特に気をつけられていることはありますか?
私が研究を本格的に始めた2013年頃、サプリメント業界はものすごく怪しいものでした。大学で活躍されていた有名な教授が、引退後にサプリメントの広告塔になって「これはすごい良いですよ」と顔出しで宣伝する。でもその実態は、自分が開発したわけでもなく、単なる“客寄せパンダ”になっているだけなんです。 そういうサプリメントが本当に効く訳がなく、エビデンスのないものばかりでした。
例えば「酵素」なんてその典型です。酵素はタンパク質ですから、飲んでも胃酸でバラバラのアミノ酸に分解されて吸収されるだけ。栄養にはなりますが、酵素としての機能は体内では働きません。それなのに、さも体に良いかのように宣伝されている。発酵食品も同じで、もともとは食品を長期保存するための技術だったのに、「健康にいい」という医学的エビデンスは無いのです。 でも、そういう商品の広告塔になってお金をもらう医者が後を絶たない。つまり私から見れば、サプリメントのCMに出ているような医者が勧める商品は、エビデンスが全くないインチキ商品ばかり。
ですから、私自身がサプリメントを開発しても世間一般から見れば「これもどうせインチキでいい加減なんじゃないか」と思われます。その問題をどうやってクリアするか? 答えは一つしかありません。細胞や動物を使った実験でしっかりした医学的エビデンスを出し、さらにヒトでの臨床試験で効果を証明する。その成果を論文として発表して世界に認知してもらう。酸化ストレスの知識がない方でも「なるほど、動物実験をしてエビデンスデータが出たのなら本物だ」と納得できるレベルの研究が必要。私が外科の教授だったからこそ、一般的な外科の教授を説得できるくらいのエビデンスがなければ、胸を張って「これは効果があります」とは言えないわけです。 そうでなければ、結局は他のパンダ医師と同じように「元某大学医学部教授です。これは効きますよ」なんて大嘘言うだけ。私は徹底的にエビデンスを積み重ねて、これが真っ当なものであることを世に示そうと決めたんです。
エビデンスといえば、日本認知症予防学会でグレードAの認定をされていますが、これについても教えてください。
岡山大学で認知症の研究をされている阿部先生からお声がけをいただき、認知症予防学会主導で認知症予防の臨床試験を行うことになったのが2015年頃でした。その時点で、私たちはすでに動物や細胞を使った基礎的なエビデンスを積み重ねていました。そのデータを学会の委員会に提出したところ、阿部先生から「よくここまでエビデンスを積んできましたね.立派なデータです。」と褒めていただき、臨床試験は異議なく進むことになりました。
私としては自分が出した基礎データから「認知症予防に当然効くだろう」と思っていました。しかし、周りの反応は違いました。最終的なデータ開示の日に岡山大学で阿部先生が「犬房先生、これから結果を開示しますが、もし反対の結果が出ても覆せませんよ」と念を押すんです。我々の後ろには承認のために教室員の方々がずらりと並んでいる。そして、AとBの二つのデータが机の上に伏せておいてあり、私が「Bの方がTwendee Xです」と言うと、阿部先生は紙をひっくり返して「おめでとうございます!」と。 すると突然、後ろにいた教室員の方々がクラッカーをパンパンと鳴らしてお祝いしてくれたんです。「え? 何これ?」って感じでしたよ。私にしてみれば当たり前の結果でしたから。A(偽薬)は全く効いておらず、B(Twendee X)は明らかに認知症予防効果がありました。
後で聞いた話ですが、医薬品の世界では、効果の厳密な臨床試験をやっても、偽薬(プラセボ)の方が効いた、なんてことが半分くらいあるそうなんです。私は外科医だったので、そういう内科的な臨床研究の難しさを知らなかったんです。私たちが行った試験は「二重盲検」といって、医者も患者もどちらが本物か分からないようにして行う、最もハードルが高く、最も結果が出にくい方法でした。サプリメントで、しかもこれほど厳しい試験で明確な差が出た。これは本当にすごいことだったんです。だから、周りはあんなに喜んでくれたんですね。
この論文が2019年に一流の医学雑誌に掲載されたことで、私たちの研究に対する信頼度は全く変わりました。それまでは動物実験のデータしかありませんでしたが、「人で効果があった」という事実は何よりも強力なエビデンスになりました。
先生はTwendee Xをさらに上回るサプリの開発も進められたそうですが、なぜ、どのように進められたのでしょうか?
実は、岐阜大学に研究室ができた2013年から、すぐに「Twendee Xよりもっと効くものを作ろう」と考えていました。Twendee X自体、ある意味で偶然的に見つかった黄金比率だったので、これをさらに超えるものが作れるはずだ、と。ただ、世界中にある全ての成分をしらみつぶしに試すのは、時間もお金もかかりすぎて現実的ではありません。何かうまい方法はないかと探していました。
ヒントになったのは、またしてもアルコール代謝の研究でした。アメリカにいる息子に頼んで、現地で売れているアルコール対策サプリを十数種類送ってもらったんです。それをマウスで試したところ、一つだけ、明確にアルコール血中濃度を下げる商品がありました。 その商品の主成分は、ある植物の根っこで、9割以上を占めていました。研究室の若いスタッフたちは「この植物根が効くんですね!」と興奮していましたが、私は全く信用していませんでした。むしろ注目したのは、その商品にごくわずか、本当に少しだけ加えられていたアミノ酸やビタミンなどの微量成分でした。
「この植物根が効いているんじゃない。この微量成分こそが鍵に違いない」 そう直感しました。研究室のメンバーで、唯一その考えに同意してくれたのが楊 馥華先生(現 岐阜大学 抗酸化研究部門 准教授)でした。「私もそう思います。同じことを言おうと思っていました」と。そこで、その微量成分の中から、Twendee Xにもともと入っているものを除いた7つの成分を特定しました。そして、この7成分のミックスを元のTwendee Xにどれくらいの割合で混ぜれば最も効果が高まるのかという実験を始めました。
サプリメント業界では「飲めば飲むほど効く」とよく言われますが、私はそうは思いませんでした。まず3%、5%、10%と混ぜて試したところ、一番効果が高かったのは、3%だったんです。「ということは、もっと量を減らした方が効く可能性があるな」と。 さらに細かく刻んで実験を繰り返した結果、最終的に最も効果が高まる配合率を突き止めたんです。人間の体というのは本当に正直で、何でも量を増やせばいいというわけではなく、一番効率よく反応する「スイートスポット」のようなものが存在するんですね。「たくさん飲めばサプリは効く」なんていうのは大嘘です。
この発見は、アルコール対策サプリがヒントでしたが、製造会社は自分たちの製品がなぜ効くのか科学的なデータは何も持っていませんでした。アメリカのサプリ会社も実態は結構いい加減なものなんです。私たちは、その偶然の産物からヒントを得て、なぜ効くのかを科学的に解明し、最も効果的な配合率を導き出してこのサプリメントを完成させTwendee Mtcontrolと名付けました。非常に理論的で、サイエンティフィックなアプローチで開発した製品です。
先生は研究の傍ら、抗酸化チャンネルというYouTubeチャンネルで発信もされていますが、これについても教えてください。
YouTubeを始めたきっかけは、TIMA Tokyo株式会社の代表の田中翔社長から「研究内容を紹介するYouTubeチャンネルをやりましょう」と言われたことです。正直、最初はすごく嫌でした。YouTubeなんて歌や踊りみたいなくだらない娯楽チャンネルというイメージしかありませんでしたからね。 でも、田中さんが「病気と酸化ストレスについて真っ当な内容で配信を続ければ、それが将来必ず財産になりますよ」と言ってくれたんです。確かにその可能性もあるなと思い、それなら真面目にやろうと決めました。
大きな転機になったのは、やはりコロナでした。2020年の1月末、中国で謎の肺炎が流行っているというニュースが出始めた頃、田中翔社長が「Twendee Xがコロナに効いたらすごいですよね」とポロッと言ったんです。 その一言でハッとしました。当時、中国からは患者さんが「間質性肺炎」を起こしているという情報が上がってきていました。間質性肺炎というのは、まさに「酸化ストレスの塊」のような病気です。これはもしやと思って調べていくうちに、「コロナは酸化ストレス病だ」と確信しました。 そこで「コロナと間質性肺炎」というテーマで動画を作って公開したところ、一晩で何万回も再生されたんです。「一体何が起こってるんだ?」と驚きました。もちろん、「呼吸器内科でもないくせに偉そうなことを言うな」といった批判もたくさん来ましたよ。 でも当時、私は安倍元総理にも情報提供をしていて、彼も私の動画を見てくれていたんです。そして3月の末、安倍さんが記者会見で「間質性肺炎がみられたらコロナを疑うように」と明言されたんです。そこから、「最初に間質性肺炎だと指摘したのはこのチャンネルだった」という認識が広まり、さらに視聴者が増えていきましたね。
ワクチンに関しては、当初期待していました。しかし、欧米で接種が始まった途端、ものすごい数の死者や強烈な副反応の報告が出てきたんです。特に脳梗塞や心筋梗塞といった血栓性の疾患が非常に多い。これも絶対に酸化ストレスが原因だとすぐに分かりました。 「このまま日本に導入したら大変なことになる」と思い、ワクチンがなぜ危険なのか、つまり、ワクチンによって体内で作られるウイルスのタンパク質が酸化ストレスを引き起こし、重篤な副反応につながるというメカニズムを発信し始めたんです。私の動画で一番見られたのが、イスラエルのワクチンの事情について説明したものです。100万回近く再生されたと思いますが、イスラエルみたいにやっているとこんなことになってしまう警告として出させてもらいました。 そもそも、ワクチン開発には最低でも数年かかるのが常識です。それが半年ほどで出てくること自体が異常でした。私の周りでも、ワクチンが原因で亡くなったり、重い後遺症に苦しんだりしている人がたくさんいます。 ですから、YouTubeでは、単に情報を伝えるだけでなく、この危険性を世の中に警告するという使命感を持って発信を続けてきました。
最近になって、酸化ストレスを下げるためのマッサージにも着目されているそうですが、どういったものなのでしょうか?
「体の外から」酸化ストレスをケアするという発想が生まれたのは、コロナ禍の自粛期間中の偶然からでした。2020年の4月緊急事態宣言で大学にも会社にも行けなくなり、しょっちゅうゴルフをしていたんです。すると腰を痛めてしまいました。
もともとマッサージ器具が筋肉を緩め、酸化ストレスを下げることはデータで知っていましたから、毎日お尻と腰に30分ほど当てていました。そうしたら、一週間くらい経った頃、信じられないことが起きたんです。当時私は61歳でしたが男性機能が爆発的に上がったので 「なるほどな」と思いました。理論的に考えれば、血流が良くなるのでバイアグラと同じ効果が出てもおかしくない。ただ、大昔からあるマッサージ器具は重いし、痛いしで使い勝手が悪い。「これをもっとちゃんとした形にできないか」と、ずっと思っていたんです。
その後、ご縁があって大手プラスチックメーカーの会長さんと知り合い、相談に乗っていただいたおかげでマッサージデバイス「gugut」の開発が始まりました。 サプリメントで体の中から酸化ストレスを下げるのはもちろん非常に重要です。全身に効きますからね。しかし、人間は体を動かすために常に筋肉を使っています。筋肉を動かせば、そこで局所的に酸化ストレスが生まれる。肩こりでできる「凝り玉」なんて、まさに酸化ストレスの塊です。血流の問題ではなく、酸化ストレス物質によって筋肉が異常に収縮している状態なんです。 この硬くなった筋肉を、外から直接緩めてやることができれば、より効果的。マッサージに行くには時間もお金もかかりますが、手軽に持ち運べるデバイスがあれば、誰でもセルフケアができます。これが「外からの抗酸化アプローチ」という考え方です。
この「中から」と「外から」の組み合わせが、ある有名な女性歌手に劇的な効果を生んだ例があります。彼女は声帯に出血性ポリープができていて病院からは手術を勧められていました。そこで私は、3つのアプローチを提案したんです。 まず、体の中から酸化ストレスを下げるために「ミトコントロール」を飲んでもらう。次に、声帯に直接アプローチするために、抗酸化ミネラルを入れた「ネブライザー」で吸入してもらう。そして声帯に悪影響を与えている首や肩の筋肉のひどい凝りを取るために「gugut」で外から筋肉を緩めてもらう。 この三本立ての治療を2025年2月から始めたところ、7月の検査ではポリープが跡形もなく消えていたのです。担当医は「奇跡だ。2000人に一人あるかないかの出来事だ」と驚いていたそうですが、それは担当医が抗酸化治療を知らないだけの話です。 体の中から、そして外から、この両面からのアプローチによって、これまで治らなかった症状にも対応できる。この考え方は、今後の抗酸化治療において非常に大きな可能性を秘めていると確信しています。
最後に、先生の今後の研究の展望とメッセージをお願いします。
私たちの研究の最終的な目標は「健康長寿」です。皆さんが長く健康でいられる、そのための手助けをすることが重要です。 その中でも、私が研究者としての道を歩み始めた原点である「がん」については、特別な思いがあります。現在のがんの標準治療は、手術、放射線、化学療法が中心ですが、残念ながらそれで治らない方がたくさんいる。しかし、そこに抗酸化治療を加えることで、驚くほど効果が出る方がいるんです。この抗酸化療法を、がんの標準治療と組み合わせる「併用療法」として確立していくこと。これがまず一つの大きな目標です。
そしてもう一つは、これまで治らないと言われてきた「難病」への挑戦です。例えば、突発性難聴や耳鳴り。これらも、ただサプリを飲むだけでなく、耳の周りや首の筋肉の凝りを「gugut」のようなデバイスで外からほぐしてやることで、改善する可能性が十分にあると考えています。そういったエビデンスを、これからどんどん蓄積していきたい。
高齢者の誤嚥性肺炎も深刻な問題です。実は共同研究をしている先生が、動物実験で非常に良いデータを出しているんですが、「データが良すぎて、自分でやった実験ながら信じられない」と言って、まだ論文化していないんです。それくらい、私たちのやっていることはポテンシャルが高い。こうした成果を一つ一つ、世に出していくことも私の務めだと思っています。
ありがたいことに、私たちの研究室には今、とんでもない才能を持った若い研究者も加わってくれました。いずれ私たちの教室から『Science』や『Nature』といった世界トップの科学雑誌に論文が載る日も来るだろうと考えています。研究者として道半ばではありますが、今のこの状況には、ものすごく満足しています。
最後に、私たちのサプリメントを飲んでくださっている皆さんへ。もし、何か少しでも「体調がいいな」「毎日元気だな」と感じておられるなら、ぜひ、そのまま続けてみてください。その効果は、一つの症状を良くするだけでなく、つま先から髪の毛の先まで、必ず全身に良い影響をもたらします。そして、将来の様々な病気を予防することにもつながります。 皆さんの健康な未来のために、私たちはこれからも研究を続けていきます。
「エビデンスのないものはインチキと変わらない」。その強い信念に基づき、細胞実験、動物実験、そしてヒト臨床試験と、段階的かつ厳密なプロセスを経てサプリメントの有効性を証明してきた犬房先生。その科学的アプローチは、認知症予防という領域で一つの大きな成果を結実させました。 前編・後編を通じて、臨床現場の課題意識から始まった研究が、新たな治療や予防の選択肢を生み出す可能性が示されたことと思います。難病治療への応用や後進の育成など、抗酸化研究が拓く未来の医療に、今後も注目が集まります。