2021.07.07
【医師監修】酸化ストレスと不妊症の関係とは!? 適度な運動の効果を解説
人体のさまざまな部分に悪影響を与えると言われる「酸化ストレス」。
酸化ストレスの元凶とされる活性酸素は、体に入った細菌などの異物を退け体を守ってくれる役目をしていますが、体内で過剰産出されると抗酸化システムとのバランスが崩れてしまい、健康な細胞にダメージを与えてしまいます。
精子や卵子にもダメージを受ければ妊娠にも大きな影響を及ぼすので、妊活を考えるなら男性も女性も正しい知識をもとに酸化ストレス対策をしましょう。
この記事では酸化ストレスと不妊の関係、さらにそのリスクを下げるためにできる具体的な方法を解説します。
酸化ストレスは人体の細胞などにダメージを与えることによって、多くの疾患を引き起こすと言われていますが、妊娠に不可欠な生殖機能にも影響を与えてしまいます。
現代人は忙しく、食事に気を遣ったり運動を続けたりすることが難しくなっています。こういった生活習慣は活性酸素の過剰産出を招き、それを除去する抗酸化力とのバランスを崩して酸化ストレス値を高める原因となっています。つまり酸化ストレスと不妊症には因果関係があるのです。
酸化ストレスがどう不妊症にかかわるのか。男性と女性、それぞれの体に起こる問題を具体的に見てみましょう。
妊娠が成立するには大きく分けて3つのステップを踏む必要があります。月に一つの卵子が月経周期に合わせて成熟し、卵巣から送り出される「排卵」、そして膣内に射精された精子が卵子の中に入って受精卵となる「受精」、そして受精卵が細胞分裂を繰り返しながら子宮内膜に辿り着く「着床」の3ステップです。
これらのステップで重要な役割を果たす精子や卵子などにダメージを受けると、うまく受精ができず、不妊の原因となります。
排卵された卵子が精子を迎え入れるためには、卵子の質が大きくかかわってきます。酸化ストレスの高い状態が続くと、卵子はさまざまなダメージを受けてしまいます。
たとえば卵子の核の中にある遺伝子情報がダメージを受けると本来の遺伝子情報が保てず、その結果卵子の質も保てなくなってしまいます。
質が保てず機能が下がることがいわゆる「卵子の老化」で、これは妊娠率の低下に繋がります。酸化ストレスは肌や身体機能だけでなく卵子をも老化させてしまうのです。また、卵子の膜がダメージを受けると受精にも悪影響が出ます。
精子は排卵された卵子の中へ入るために酵素を出して卵子の膜を溶かしますが、酸化ストレス値が高い状態では卵子を覆う膜が固くなって中へ入りにくくなってしまいます。卵子の質が低下しているなら数を増やしたいところですが、「原始卵胞」という卵子の元となる細胞の数は限られているので卵子を増やすことはできません。
つまり今ある卵子の質を脅かす酸化ストレス値の高い状態を避け、卵子の老化を防ぐことが妊活には重要なのです。
酸化ストレスはED(勃起不全)や精子の動き、そして精子の数に影響を与えます。
EDの原因は年代にもよりますが、主な原因は血液が下半身にうまく流れないことです。酸化ストレス値が高いとLDLコレステロールが酸化されて塊(プラーク)となり、血管の壁にへばりついて血栓になります。
血管が狭くなれば血液の流れは悪くなり、EDとして症状が現れるのです。つまり酸化ストレスはEDの原因となり、さらには血栓を作ることで動脈硬化のリスクにもなるということです。
また、精子の運動にはエネルギーを産生するミトコンドリアが必要となります。ミトコンドリアは活性酸素を生み出す場所であり、一番酸化ストレスのダメージを受ける場所です。精子の運動率や質の低下が起こさないためにも、酸化ストレスを下げる必要があります。
また、近年はスマホの普及によってズボンの前ポケットにスマホを入れる方を見かけます。近距離で長時間電波にさらされることは、精巣にとって悪影響だと言われています。局所的に酸化ストレスを高めるため、精子の質や運動率の低下を招いてしまいます。
酸化ストレスは不妊症の原因の一つです。酸化ストレスを軽減するには活性酸素の過剰産出を抑えつつ、体内の抗酸化システムを活発化させなければいけません。そのためには普段の生活の中で少しずつ意識を高めていくことが重要です。
タバコや飲酒によって体内に生じるアセトアルデヒドは、体内に大量の活性酸素を産生します。
またタバコの副流煙には、酸化ストレスを引き起こす有害物質が含まれているため、パートナーにも影響を及ぼすことになります。卵子や精子の質を悪くしないためにも、タバコや多量の飲酒はやめたいものです。
参考: 喫煙と酸化ストレスについて(岐阜大学 抗酸化研究部門)
酸化ストレスを下げるためには、毎日の食事の見直しも大切です。食物の中には、たくさんの抗酸化物質が含まれています。ビタミンCやビタミンE、ビタミンB群やカロチノイド、ポリフェノール類など、できるだけ多くの食べ物から摂るようにしましょう。
ビタミンCはパプリカやトマトなど、カロテノイドは緑黄色野菜に多く含まれます。色の濃い野菜には抗酸化作用が含まれるものが多いので積極的に摂りましょう。
逆に控えたいのは炭水化物や糖質です。糖質を摂取するとインスリンの分泌が増加し、高血糖状態が続くと活性酸素が過剰に産出されます。野菜は体に良いというイメージがありますが、ダイコンやニンジンといった根菜類は糖質が多く含まれているので注意が必要です。
同じ炭水化物でも白米など白い穀物より玄米など茶色い穀物のほうが糖質量が低いなど、食品ごとに糖質は異なります。野菜だから炭水化物だからというくくりではなく、食品ごとに気を配るのが良いでしょう。
参考: 酸化ストレスの観点から推奨される食事とは?(岐阜大学 抗酸化研究部門)
運動は酸素消費量が増加します。そのため、運動することによって一次的に酸化ストレスが増加しますが、同時に酸化ストレスを打ち消す力(抗酸化力)も上がりますので、適度な運動を心がけましょう。
過度の運動は酸化ストレスを上昇させるため、週に2~3回、速足で30分歩く程度の適度な運動にとどめましょう。
参考: 運動は健康にいい?筋肉質な人は長生きできる?(岐阜大学抗酸化研究所)
最近、多くのサプリメントが手軽に購入できるようになりました。酸化ストレスを抑える、いわゆる抗酸化をうりにしたサプリメントもたくさんありますので、どれを選べばいいのか迷ってしまうことでしょう。
たとえば抗酸化作用のある○○が入っている、○○100個分の成分を濃縮した、いつまでも若くて美しい○○さんが愛用しているといった広告のインパクトで選んでしまう人も少なくありません。どんな成分が入っているか、誰が宣伝しているかといったあいまいな理由ではなくデータや科学的根拠をもとに選ぶことが重要です。
参考: 効果的なサプリメントとそうでないサプリメントの見分け方(岐阜大学 抗酸化研究部門)
参考: サプリメントは抗酸化に効果大?(岐阜大学 抗酸化研究部門)
酸化ストレスが高くなると体のさまざまな部分に悪影響が現れます。精子や卵子の質が低下すれば不妊症のリスクを抱えることにもなりかねません。
妊娠はいつまでも何度でもチャレンジできるというものではないので、環境や年齢を考えて早くからリスクの少ない体づくりをしておくことが重要です。体質や遺伝と違って酸化ストレス対策は自分でできます。いわば最初の妊活です。食事や生活習慣を見直し改善していきましょう。
さらに詳しい情報をまとめたリーフレットを作成しました。酸化ストレスと妊活についてもっと知りたい方はお問い合わせくださいませ。