【医師監修】アルツハイマー型認知症と酸化ストレスの関係とは!?予防や対策のポイントについて解説

2021.09.14

三大認知症のひとつ、「アルツハイマー型認知症」。認知機能障害や物忘れなど日常生活への影響が大きい認知症です。

 

その原因のひとつは酸化ストレスと言われます。酸化ストレスは脳へのダメージが大きく一度死んでしまった脳神経細胞は回復しないため、早めの対策が重要です。食事や生活習慣など日常生活で意識を変えるだけでもリスクを減らせるので、気づいたときにできることから始めてみましょう。

 

この記事ではアルツハイマー型認知症と酸化ストレスの関係、そしてその対策について解説します。

 

アルツハイマー型認知症とは!?

 

認知症とはさまざまな原因で脳の神経細胞が減少する、もしくは破壊されることで起こる特有の症状や状態の総称です。認知症の中でも6割以上を占める「アルツハイマー型認知症」を含めた「レビー小体認知症」「血管性認知症」は三大認知症と言われ、この3つで全体の8割以上を占めています。

 

アルツハイマー型認知症は比較的女性に多く発症し、ゆっくりと進行していくのが特徴です。原因はアミロイドβなどの沈着で海馬を中心に脳が萎縮した結果、物忘れや認知機能障害といった症状が現れます。物忘れは加齢によるものと違って新しい出来事を記憶できない、ヒントを与えられても思い出せないなど日常生活へ大きな影響を与えます。

 

レビー小体型認知症は男性にやや多く発症し、調子が良いときと悪いときを繰り返しながら進行するのが特徴です。原因は有害なレビー小体の出現で、神経細胞が破壊された結果、幻視や妄想、認知機能障害、パーキンソン症状などが現れます。

 

血管性認知症は男性に多く発症し、段階的に悪化するのが特徴です。脳梗塞などの脳血管障害の後遺症として進行することが多く、脳の中には進行した部位とそうでない部位が混在します。物忘れをはじめ認知機能障害やまだら認知症、手足のしびれ(まひ)などが症状として現れます。

 

アルツハイマー型認知症の原因

 

認知症の原因はタイプによって異なります。アルツハイマー型認知症の主な原因はアミロイドβなど、いわゆる脳のゴミが脳内に蓄積することだと言われていますが、最近では酸化ストレスが関与することがわかってきました。

 

アミロイドβなどの脳の不要物質の蓄積

アルツハイマー型認知症の原因のひとつは不要物質の蓄積です。アミロイドβやタウたん白と呼ばれる「脳のごみ(異常なたん白)」が脳内に蓄積すると脳神経細胞の正常な働きが阻害され神経細胞は死滅。結果、脳が萎縮して(縮んで)しまいます。

 

萎縮は海馬と呼ばれる記憶をつかさどる部分から始まるため、物忘れが初期症状として現れ、それからだんだんと脳全体に広がっていきます。

 

また、発症(診断)時点ではすでに長年にわたって脳のごみが蓄積している状態であるため、効果的な予防や根本的な治療は難しいと言われています。アルツハイマー型認知症は年齢が高くなるほど多く見られるようになりますが、40代など比較的若い世代でも見られ、その場合は遺伝的要因も考えられます。

 

酸化ストレスによりオートファジー機能が低下

脳は活動するときに多くの酸素を必要とします。その量はなんと体に取り込まれた酸素の約25%と多量です。酸素を多く使うということは酸化ストレスの素となる活性酸素を多く産出することに繋がりますし、一度死んでしまった脳細胞が再び活動することはありません。つまり脳は体の中でも酸化ストレスのダメージを受けやすい部位だと言えるでしょう。

 

人間の体内には「オートファジー」と呼ばれる細胞のゴミを掃除する機能が備わっています。自らの細胞を分解することから自食作用とも言われるこの機能は、余分な細胞や異常なたんぱく質といった体内の不要な物質を分解し細胞を正常に保ちます。

 

脳にもこの機能は常時働いているのですが、非常時には更に駆けつけて働くことにより身体を守っています。しかし、老化や酸化ストレスが高くなると、非常時に働くオートファジー機能が低下してしまいます。

 

すると脳内にごみが蓄積、これにより酸化ストレスが更に上昇し、脳神経細胞がダメージを受けてしまうのです。実際に、アルツハイマー病患者さんの脳では、オートファジー異常があることも指摘されています。

 

アルツハイマー型認知症の予防や対策

 

アルツハイマー型認知症の根本的な治療法は、現段階では見つかっていません。そのため予防や対策に力を入れていくことが重要です。

 

アルツハイマー型認知症は35年の病気と言われています。たとえば75歳で診断され85歳でなくなった人の場合、50歳から少しずつ症状が出ていたということになります。予防するには症状に気づいて受診するずっと前から対策を始めなければいけません。

 

認知症は全身病。全身の血管の炎症や酸化ストレスの影響が脳に届くため、生活習慣を見直して発症や進行を緩やかにしていきましょう。

 

酸化ストレス値を下げる

酸化ストレスはオートファジー機能を低下させてしまうため、酸化ストレス値を上げないような生活をすることがアルツハイマー認知症予防として効果的です。酸化ストレス値を上げる喫煙、飲酒、紫外線、放射能、精神的ストレスなどをできるだけ避けることが望ましいでしょう。

 

喫煙や飲酒は酸化ストレスの素となる活性酸素を生み出すアセトアルデヒドを発生させますし、紫外線を浴びた皮膚も体を守るために活性酸素を発生させます。精神的なストレスを抱えると脳の中に酸化ストレス物質が増えるため、やはりこれも酸化ストレスにつながります。

 

こういった酸化ストレス値を上げる習慣を改めることで、現状よりは酸化ストレスを低い値にしていけるというわけです。とはいえ、急にたばこやお酒を完全にやめようとするのは精神的なストレスになってしまうかもしれません。まずは量を減らし、できそうなら段階的にやめていくなど、自分に合った無理のない方法を探しましょう。

 

参考: 喫煙と酸化ストレスについて(ルイ・パストゥール医学研究センター 抗酸化研究室)

 

食事改善

酸化ストレスは体内の活性酸素量と抗酸化システムのバランスが崩れることで起こります。抗酸化システムを助ける抗酸化物質が含まれた食品、いわゆる抗酸化食品を積極的に摂取することで酸化ストレスの軽減効果が期待できます。代表的な抗酸化物質はビタミンC、ビタミンE、カロテノイド、ポリフェノールです。

 

緑黄色野菜やナッツ類を意識的に摂取すると良いでしょう。一方で糖質を抑えることも酸化ストレスの軽減に役立ちます。高血糖状態が続くと活性酸素が過剰に産出されてしまうからです。甘いものは精神的ストレスを和らげる効果もあるでしょうが食べ過ぎは禁物です。

 

また、炭水化物を摂取すると血糖値が跳ね上がるためパンや白米も控えましょう。玄米や雑穀に置き換えるのも多少は効果があります。どの食品にも言えることですが、食べ過ぎは体に負担をかけます。ゆっくりよく噛んでバランス良く食べる。結局はこの基本的な食べ方が酸化ストレス軽減の面から見ても良いと言えます。

 

参考: 酸化ストレスの観点から推奨される食事とは?(ルイ・パストゥール医学研究センター 抗酸化研究室)

 

適度な運動

酸化ストレスの軽減には適度な運動も効果的です。運動をすると、体の中で酸化ストレスに打ち勝つ力(抗酸化力)がつきます。運動をすると心拍数が上がって酸素をたくさん消費するので、体内の活性酸素量は増えます。一時的に酸化ストレスが高い状態になるため、運動は酸化ストレス軽減には逆効果なのではないかと思われるかもしれません。

 

しかし定期的に運動をして体を整えていれば抗酸化力がつくため、長い目で見れば運動は酸化ストレス軽減に効果的といえるのです。ただし負荷の高すぎる運動は抗酸化力を越えた活性酸素を産出してしまうので避けましょう。

 

また、筋肉量は多ければ良いというものでもありません。負荷が高すぎると継続しづらいという問題も出てきます。週に2,3回、早足で30分歩くらいの負荷を目安に、適度な運動を心がけてください。

 

参考: 運動は健康にいい?筋肉質な人は長生きできる?(ルイ・パストゥール医学研究センター 抗酸化研究室)

 

科学的根拠のあるサプリメントの摂取

酸化ストレスの軽減には日常生活の見直しが効果的です。しかし、時間や予算などを考えると、生活習慣を変えるのが難しいこともあります。この様な時には、サプリメントを利用するのもいいかもしれません。

 

今は酸化ストレスに効果のあるサプリメントが多く売られていますが、その中には残念ながら効果が疑わしいものあるため、最低限の知識を持った上で選びたいものです。サプリメントの良し悪しは成分とその科学的根拠で決まります。どの成分がどんなデータから効果的だと判断されて配合されたのか。副作用や別の成分との組み合わせはどうか。

 

とくに新しい成分にはまだ見つかっていない副作用などのリスクもあるので慎重に見ていきます。科学的エビデンスが消費者に開示されていて、それが信頼できるものなのかをしっかり見極めて取り入れることが重要です。魅力的な口コミや派手な広告に惑わされず、科学的な見方でサプリメントを選んでください。

 

参考: サプリメントは抗酸化に効果大?(ルイ・パストゥール医学研究センター 抗酸化研究室)

 

まとめ

三大認知症の大半を占めるアルツハイマー型認知症。根本的な治療法はまだ見つかっていません。進行速度はゆっくりですが見つかったときにはすでに進行している状態なので、早めに対策を打ちたいものです。

 

アルツハイマー型認知症発症のリスクを減らすには規則正しい生活や酸化ストレスを下げることが重要です。たばこや紫外線を避け、抗酸化物質を積極的に摂取し適度な運動を習慣化する。日常生活を見直して酸化ストレスが溜まりにくい生活スタイルを作ることがアルツハイマー認知症の予防につながります。