【医師監修】酸化ストレスとは!? 症状や原因、減らすための改善方法を解説
2021.07.07
病気を引き起こしやすくしたり老化を早めたりする悪者として耳にする「酸化ストレス」。鉄がサビてぼろぼろになってしまうことから「体のサビ」とも呼ばれています。
目に見える形で表面に出てこないため見落とされがちですが、健康や美容を考えるならなるべく酸化ストレスを下げる生活をしたいものです。そのためには酸化ストレスのメカニズムを理解し生活習慣を見直して食事に気をつけることが重要です。
この記事では日々の酸化ストレスを減らしたい方に向けて、酸化ストレスの概要や原因、そして改善方法を解説します。
酸化ストレスとは!?
「酸化ストレス」とは体内の活性酸素(※1)が体の酸化防御機構を上回った状態のことで、英語にすると「oxidative stress」を指します。
人間が取り込んだ酸素の一部は活性化されて過酸化水素などの活性酸素となります。活性酸素は免疫機能の向上や感染防御といった人体にとって重要な働きを担いますが、活性酸素が作られ過ぎたりそれを除去する力(酸化防御機構)が追いつかなくなったりすると処理しきれなかった活性酸素が体内に蓄積され体に悪影響を及ぼします。
酸化ストレスの原因やメカニズム
酸化ストレスの原因は過剰に算出された活性酸素です。
ヒトが取り込んだ酸素の数パーセントは活性酸素に変化すると言われています。この活性酸素は生物の生存に必要不可欠な細胞や遺伝子、たんぱく質などを傷つける性質があります。しかし、人体には活性酸素の攻撃から体を守るシステム(酸化防御機構)も備わっています。
活性酸素の生産と酸化防御機構のバランスが取れていれば体は守られ、活性酸素は有害な物質のみを攻撃することになるのでそれ自体が直接人間の害となることはありません。
しかし酸化防御機構がうまく機能しないことで活性酸素が上昇すると、このバランスが崩れ、健康な細胞が活性酸素の攻撃によってダメージを受けるてしまうのです。
※1 参考: 酸化ストレスの元「活性酸素」、実は身体の免疫に役立っている!(岐阜大学抗酸化研究所)
酸化ストレスの元凶、活性酸素とは?
酸化ストレスとは、体内で発生する活性酸素と酸化防御機構のバランスが崩れ、活性酸素が過剰になることです。
ヒトは呼吸を通して酸素を取り入れる限り、常に活性酸素は産生されます。活性酸素は酸素が活性化されたもので、ほかの物質を酸化させる力が非常に強いため、増えすぎると人体にとっては良くありません。
しかし、だからと言って全て消去できるものではありません。なぜなら、私たちの身体はこの活性酸素を使用して、細菌やウイルスを撃退したり細胞間のシグナルを伝達するなど人体に有益な働きもしてくれます。酸化ストレスの原因は活性酸素ですが、問題はその存在ではなく、体にとって有益な量を保てるかどうかなのです。
酸化ストレスが引き起こす症状・病気
酸化ストレスは細胞を傷つけ人間の臓器や組織(たんぱく質や遺伝子など)の機能低下を招きます。
たとえば血中でコレステロールなどを運ぶ低比重リポたんぱく(LDL)が酸化ストレスによって酸化すると白血球に捕食され、その残骸が血管壁にたまって動脈硬化を引き起こして心筋梗塞などのリスクとなります。
このように直接的もしくは間接的にがん、糖尿病、高血圧、アレルギー疾患、多臓器不全、未熟児網膜症といったさまざまな疾病にかかわっているのです。
老化が進行する
老化とは人間の生理機能の低下を指します。老化の原因は細胞分裂の数が決まっているという「プログラム説」など諸説ありますが、そのなかには活性酸素が細胞に障害を引き起こすという「活性酸素説」もあります。
酸化ストレスが高い状態では正常な細胞が攻撃されるため、加齢からくる正常なスピードでの老化より速く、筋肉の減少や身体機能の低下といった老化症状が起こります。また、老化のスピードは40代から加速するのも活性酸素を除去する酸化防御機構の応力が急速に衰えて酸化ストレスの高い状態になってしまうからだと言われています。
ただし老化は生物にとって自然な変化のため、酸化ストレスを取り除けば老化を確実に抑えられるとは言えません。
参考: 老化は遅らせられる!アンチエイジングを酸化ストレスの観点から解説(岐阜大学抗酸化研究所)
ニキビができやすくなる
ニキビとは毛包(毛穴)が詰まってできる発疹のことです。皮脂や角質が毛穴に詰まると表面が盛り上がり、毛穴に溜まった脂で表面が黒くなり、アクネ菌(プロピオニバクテリウム・アクネス)が繁殖して炎症を起こします。
これらは段階ごとに白ニキビ、黒ニキビ、赤ニキビとも呼ばれます。ニキビは主に顔にできますが、それは顔が太陽(紫外線)に当たる場所だからです。
紫外線が皮膚に当たると活性酸素のひとつである過酸化水素が作られ、酸化ストレスが高い状態になって皮脂が酸化。酸化した皮脂は毛穴を詰まらせ、毛穴から排出されなくなってニキビができてしまいます。
つまり酸化ストレスによって酸化した皮脂がアクネ菌を繁殖させ、結果的にニキビを作ってしまうということです。
参考: ニキビと酸化ストレス:その美容成分は抗酸化力がある?(岐阜大学抗酸化研究所)
がんの発症リスクが高くなる
がんの発生の6割(※2)は紫外線やたばこなどの環境が要因と言われています。
これらの環境要因から作られる活性酸素が遺伝子を傷つけますが、本来はそれを修復したり傷ついた遺伝子を持つ細胞を殺したりしてがん化を防いでいます。
しかし防御機能がうまく働かなかったり活性酸素からの攻撃が持続的かつ強力な場合は修復しきれずがん化が始まると言われています。すべてのがんに当てはまるかはまだ分かっていませんが、前立腺、大腸直腸、胃、肺、卵巣など多くの部位のがんにおいて酸化ストレスが関与していると報告されています。つまり活性酸素が過剰な状態である酸化ストレスはがんの発症リスクを高めると言えるのです。
※2 参考: 人の健康と活性酸素(杉田収)
酸化ストレスを減らす生活や食事ポイント
酸化ストレスを減らすためには活性酸素が過剰にならないように気をつけ、さらに酸化防御機構を強くすることが重要です。
活性酸素は酸素を取り込むことでかならず発生しますし、体に有用な働きもあるのでゼロにしようと考える必要はありません。酸化防御機構がしっかり機能していればバランスが取れて酸化ストレスが高い状態にはならないので、活性酸素が大量に発生するようなリスクの高い行動を避けて生活しましょう。
生活習慣のポイント
酸化ストレスを軽減するため必要なのはいわゆる健康的な生活です。
バランスの取れた食生活に適度な運動、十分な睡眠、そしてストレスを抱えすぎないことが酸化防御機構を良好にし、酸化ストレスを軽減します。
タバコを控える
タバコの煙には体を酸化させる活性酸素をはじめ多くの有害物質が含まれているため、喫煙習慣のある人は少しでも控えることで酸化ストレスを軽減できます。
タバコの煙には活性酸素のひとつである過酸化水素が含まれ、過酸化水素は酸化LDLを含む変性LDLを生じさせて動脈硬化を引き起こし、さらには心筋梗塞や脳梗塞のリスクも高まります。
同じく煙に含まれるアセトアルデヒドは肝臓の細胞に作用して過酸化水素を生むうえ、実験動物には発癌性が確認され、人間の食道癌の原因にもなります。副流煙にも活性酸素は含まれており、百害あって一利なし。禁煙は簡単なことではありませんが、控えるに越したことはありません。
参考: 喫煙と酸化ストレスについて(岐阜大学抗酸化研究所)
アルコールを摂りすぎない
適度なアルコールはストレス解消などの効果もありますが、摂りすぎは体に毒です。アルコールは生産の過程で高濃度のアセトアルデヒドが含まれますし、さらにアルコ―ルに入っているエタノールが体内で酸化されてこれもアセトアルデヒドになります。
アセトアルデヒドは体内で過酸化水素を生み酸化ストレスを高めるので、摂りすぎは禁物です。厚生労働省は「日本酒なら1日1合まで、週に1回以上の休肝日」を提唱しています。
酸化ストレスを含めた体の不調を招かないための目安としても良いでしょう。少量でも顔が赤くなる、吐き気がするといったフラッシング反応を起こす人はアセトアルデヒドの分解が遅いタイプかもしれません。飲酒量にはより一層気をつける必要があります。
適度な運動の実施
運動をすると心拍数が上がり呼吸も早くなります。とくに水泳やジョギングなど多くの酸素を吸って消費する有酸素運動はより多くの活性酸素が産出されるため、酸化ストレスを上げるとも言えます。
しかし適度な運動は体に心地よい刺激を与え、活性酸素を除去する抗酸化酵素が発生して体の酸化を抑えます。酸化ストレスは活性酸素の量が酸化防御機構の力を上回ることで起こります。
適度な運動は一時的に活性酸素量が多くなったとしても、それを補って余りある効果が期待できます。ただしこれは適度な運動の場合です。過度な負荷をかけた運動では酸化ストレスを高めるだけとなってしまうので注意しましょう。
参考: 運動は健康にいい?筋肉質な人は長生きできる?(岐阜大学抗酸化研究所)
紫外線や日焼けをさける
太陽光には紫外線が含まれています。紫外線を浴びた皮膚は体を守ろうと活性酸素のひとつである過酸化水素を発生させ、これが肌をみずみずしく保つコラーゲンやエラスチンといったたん白を破壊、変性します。
するとシワやたるみが引き起こされます。さらにこれらの刺激から肌を守ろうとメラニン色素も生成され、その一部はシミとなって肌に残ります。
日焼けは肌にだけ起こるものではありません。紫外線は目にも活性酸素を発生させ、水晶体を構成するたんぱく質を変性させて白内障を引き起こすリスクとなります。日焼け止めやカーディガンなどの日焼け対策に加え、サングラスなどで目を守ることも酸化ストレスの軽減に有効です。
参考: 日焼けすると酸化ストレスが上がる?!(岐阜大学抗酸化研究所)
食事のポイント
酸化ストレスを軽減するには酸化防御機構の働きを助けることが必要です。そのためには食物から抗酸化成分を取り込むことも効果があります。バランスの良い食事とともに抗酸化成分を含む食品を積極的に摂るよう意識しましょう。
抗酸化成分を多く含む食事を心がける
活性酸素を除去する作用のある抗酸化成分はビタミンC、ビタミンE、ビタミンB群、カロチノイド(カロテノイド)、ポリフェノール類などです。
つまりこれらを多く含む食品を摂ることが酸化ストレスの軽減に繋がると言えます。ビタミンCを多く含むのはキウイ、イチゴ、トマトなど、ビタミンEを多く含むのはナッツ類や大豆などです。カロチノイドはカボチャや緑黄色野菜のほか、わかめやひじきなどの海藻類、えびやかになどの甲殻類にも多く含まれます。
ポリフェノールはブルーベリーといった食品のほか、緑茶や赤ワインなどの飲み物から摂ることもできます。ワインは白でも同等のポリフェノールが含まれますが、アルコールにも活性酸素が含まれるため適量であることが重要です。
抗酸化成分は3大栄養素(炭水化物・脂質・たんぱく質)以外に多くあることが分かります。現代人はエネルギーや腹持ち、価格の点から3大栄養素に偏りがちですが、バランスの良い食事は体に必要な栄養素を取り込みつつ酸化ストレスの軽減も期待できると言えるでしょう。
参考: 酸化ストレスの観点から推奨される食事とは?(岐阜大学抗酸化研究所)
まとめ
酸化ストレスとは活性酸素と酸化防御機構のバランスが崩れて健康な細胞をも攻撃してしまう状態です。細胞のダメージは臓器や組織の機能低下を招きます。
シミ、シワなど通常より速く老化したり、時には命にかかわる疾病のリスクを抱えるなど体にさまざまな悪影響を与えます。酸化ストレスを軽減するには日々の生活で活性酸素の産出量を意識することが重要です。
活性酸素の過剰生産を避け酸化防御機構の働きを助けるよう、バランスの取れた食生活に適度な運動、そしてストレスためないことを心がけましょう。